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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)3939号 判決 1959年10月23日

原告 アメリカン・プレジデント・ラインズ・リミテツド

被告 シー・スブラ株式会社

主文

原、被告間の一九五七年(昭和三二年)三月二三日付傭船契約に基く滞船料等につき一九五九年(同三四年)二月二七日ニユーヨークにおいて仲裁人エイ・ダブリユー・パリー、同テイ・シイ・ジエンウエイ、同デイ・ビー・ドナルドがした仲裁判断中米貨金三四、一九六ドル七〇セント(邦貨換算額金一二、三一〇、八三三円)につき強制執行をすることを許可する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告が金一二〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「原、被告間の一九五七年三月二三日付汽船ハンター・ヴイクトリー、同グローブシテイ・ヴイクトリーに対する傭船契約に基く滞船料等請求事件につき一九五九年(昭和三四年)二月二七日ニユーヨークにおいて仲裁人エイ・ダブリユー・パリー、同テイ・シイ・ジエンウエイ、同デイ・ビー・ドナルドがした仲裁判断の内米貨金三四、一九六ドル七〇セント(邦貨換算額金一二、三一〇、八三三円)及びこれに対する昭和三四年二月二七日から完済まで年六分の割合による金員に対し強制執行をすることを許可する。」及び第二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は米国法人、被告は日本法人であるが、原、被告は一九五七年(昭和三二年)三月二三日、原告を船主、被告を傭船者として原告所有の汽船ハソター・ヴイクトリー、同グローブ・シテイ・ヴイクトリーに関し裸傭船契約をし、同契約に関し、生ずべき紛争については、米国ニユーヨークで船主選定の仲裁人一名、傭船者選定の仲裁人一名、及び両者選定の仲裁人一名計三名の仲裁に付する旨の仲裁契約をした。

二、しかして右傭船契約につき、右各船の滞船料、港湾手数料等につき原、被告間に紛争を生じたので、原告は一九五八年五月二二日ニユーヨーク南部管轄の米合衆国連邦地方裁判所に申請して仲裁手続の進行を求め、右仲裁契約に基き仲裁人として船主である原告はエイ・ダブリユー・パリーを、傭船者である被告はテイ・シイ・ジエンウエイを、原、被告でデイ・ビー・ドナルドを各選定し、同仲裁人等は一九五九年(昭和三四年)二月二七日次のような仲裁判断をした。即ち

(一)、ハンター。ヴイクトリーについて

(1)  被告は原告に対し滞船料金二五、三二三ドル六五セント及び内金一四、二〇〇ドルに対し一九五七年八月一日から翌年一一月一二日まで年六分の割合による利息金一、〇九三ドル四〇セントを支払え。

(2)  被告は原告に対しカキナダにおける港湾手数料(ボートチヤージ)金一、〇四四ドル四六セントを支払え。

(3)  被告は原告に対し日本門司において原告が滞船料のため留置権を行使した費用(艀料を含む)金三、二一四ドル六一セントを支払え。

(4)  原告は被告に対し陸港におけるデイスバツチマネー金一、六〇三ドル七八セントを支払え。

(二)、グローブ・シテイ・ヴイクトリーについて

(1)  被告は原告に対し船積港における滞船料金二〇、三一六ドル六〇セントを支払え。

(2)  原告は被告に対しデイスバツチマネー金九九二ドル一八セントを支払え。

(三)  原、被告のその余の請求は棄却する。

(四)  仲裁人に対する費用及び報酬金七五〇ドルはこれを三分しその二は被告の負担、その一は原告の負担とする。

(五)  連記費用はこれを三分し、その二は被告の負担、その一は原告の負担とする。

三、右仲裁判断は同年四月七日前記米合衆国連邦地方裁判所により米合衆国仲裁法により確認された。

四、しかして右仲裁判断によると、原告の被告に対する債権は計金五〇、九九二ドル七二セントであり、被告の原告に対する反対債権は計金二、五九五ドル九六セントであるからこれを相殺すると原告の被告に対する債権は金四八、三九六ドル七六セントとなるところ、その内金一四、二〇〇ドルは被告から既に弁済をうけているのでこれを差引き残額金三四、一九六ドル七〇セント(邦貨換算金一二、三一〇、八三三円)及びこれに対し、右仲裁判断に対する右米合衆国連邦地方裁判所の執行判決は、右仲裁判断の日以降年六分の割合による利息の支払を命じており、年六分の利息は日本商法も法定利率とするところであるから直接右仲裁判断には右利息の支払につき記載はないが、それと一体をなす右執行判決には利息の支払を命じているので、右仲裁判断の日である一九五九年(昭和三四年)二月二七日から完済まで年六分の割合による金員に対し執行判決を求めるため、「日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約第四条に基き本訴に及んだと述べ、

被告の、原告は仲裁判断の一部について執行判決を求めているとの抗弁に対し、前記仲裁判断は前記の如く原告の被告に対する支払義務、被告の原告に対する支払義務と全く相反する判断を含んでをるのであるから、単純に右仲裁判断による執行許可を求めるとすれば、原告の被告に対する支払義務についても執行判決を求めることになり原告に不利益な判決を求める結果になるのであるから、右の如き仲裁判断については被告の原告に対する支払債務金額から原告の被告に対するそれを控除した残額につき執行判決を求め得ざるを得ないし、また被告は既に原告に対しその支払義務の一部を履行しているからこれを控除したにすぎないのであつて、被告主張の如く仲裁判断の一部を任意に抽出してその執行判決を求めているのではないと述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め答弁として原告の請求原因事実中第一乃至第二項の事実は認め。第三項は知らないと述べ、

一、原告は仲裁判断のうち一部の金員について強制執行をすることを許可する旨の判決を求めているが、執行判決は外国判決又は仲裁判断全体につき執行力を付与する訴訟上の形成判決であるから、その外国判決又は仲裁判断中の一部分についてのみ執行判決を求めることは許されないものである。

二、原告は仲裁判断の日以降年六分の割合による利息の支払を求めているが、米合衆国仲裁法には利息の支払についての規定はなく、ニユーヨーク南部管轄米合衆国連邦地方裁判所が年六分の利息の支払を命じた法律的根拠は必ずしも明らかでないのであつて、たとえ執行判決が仲裁判断と一体をなすものであるとしても右執行判決に利息の支払を命じたことを根拠に、本訴において利息につき執行判決を求めることは理由が乏しい。

仮りに米合衆国で年六分の利息の支払を命じることが法として確定しているとしても、日本の裁判所で執行判決を求めるにあたつては、その仲裁判断に限定されるのであり、判断されない利息についてその支払を求めることはできないと述べた。

立証として原告は甲第一乃至第五号証を提出し、被告はこれら各号証の成立をすべて認めた。

理由

原告が米国法人、被告が日本法人であつて、原、被合間に原告主張の日に原告主張の如き裸傭船契約がなされ、同契約につき紛争が生じたときは、米合衆国仲裁法により米国ニユーヨークで原告選定の仲裁人、被告選定の仲裁人及び原、被告選定の仲裁人各一名計三名により仲裁に付する旨の仲裁契約をなし、原告は原告主張の如く一九五八年五月二二日ニユーヨーク南部管轄米合衆国連邦地方裁判所に申請して仲裁手続の進行を求め、右仲裁契約に基き原告主張の如く原、被告双方各仲裁人を選定し一九五九年二月二七日原告主張の如き仲裁判断のあつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一乃至第三号証によれば、右仲裁判断につき原告は同年三月一〇日右連邦地方裁判所にその確認と執行命令を申立て、同裁判所は同年四月七日、被告が右仲裁判断を確認し同裁判所の命令登録に賛成したとして仲裁判断を確認しその執行命令をしたことが認められる。

次に原告は右仲裁判断の一部について執行を求めているもので許されないとの被告の抗弁につき判断するに、被告主張の如く本訴執行判決は我が国においてその外国判決又はこれと同一と見なすべき仲裁判断等の効力を認めるべきか否かを審理して、その執行力を付与する判決であつて、給付を求める判決ではないから、その外国判決又は仲裁判断等の一部のみについて、執行力の付与を求めることは法理上許されないところであるが、本件の如く、原被告間の前記仲裁判断は被告に対し原告に計金五〇、九九二ドル七二セントの支払を命じる一方原告に対し被告に計金二、五九五ドル九六セントの支払を命じており、原、被告互に金員の支払義務を有し且右各支払義務は総てその履行期を同じくする判断をしているのであるから、これの任意の履行について原告より被告に対する支払債務を完済したうえ、被告から原告に対する債務を受領するような迂遠徒浪な方法を現実に採るとは思はれず、その各債務については互にその債権をその対当額で相殺しその差額金について支払が行はれるものと考えられ、又その仲裁判断の任意の履行がなく本訴の如くその執行判決を求めたときは、同判断において原告に対し反対債権を有する被告は必ずやその反対債権を以つて相殺を主張し又任意に支払済の債務があるときはその支払金額を控除した残額につき執行判決あるべく抗弁することは容易に推し得られるのであつて、執行判決訴訟においては前記仲裁判断の成立時後にその債権に変化を来すも尚依然として右仲裁判断全部につき執行力の付与を求めるべく、これに対し同判断成立時後の相殺又は弁済などによるその債権の変化を主張する抗弁をなしその執行力の排除を求めることはできない、との見解は左袒しがたく、執行判決訴訟において訴訟経済上右債権の変化につき抗弁を主張しその執行力の排除を求めることができ、執行判決は右仲裁判断の現在の執行力の存在を求めるべきもので、過去の執行力の存在を求めるべきものではないと解せられるから、原告が先行的に被告の同仲裁判断における債権を自働債権として自己の債権と相殺し、その履行済の金額を控除して同仲裁判断の残額につき執行力の付与を求める本訴は相当であるというべく、被告の右抗弁は採用できない。

次に原告は右仲裁判断についてその仲裁判断の日以後年六分の利息支払を併せ求めているが、成立に争いない甲第四、第五号証によるも米合衆国連邦法において仲裁判断の日以後当然年六分の利息の支払を命ずべきものと確定した法が存在するとは認められず、且仲裁判断についてその履行期後の利息につき定めのない場合はその執行力を附与するにすぎない執行判決において新に右仲裁判断に対し利息の支払を命じる給付判決を含む判決をすることは許されないものと解するから、右原告の主張は採るを得ない。

よつて原告の本訴請求中、右仲裁判断の日から完済まで年六分の割合による利息の支払を求める部分を除いては理由があるから認容し、その余につき棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、仮執行につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大前邦道)

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